Rails World 2025 でパネルディスカッションに参加してきました

Rails World 2025 参加レポート

こんにちは、hsbtです。Ghost of Yōtei の発売日が近づいてきて、北海道出身者として羊蹄山や各エリアがどのように表現されるかを待ちきれない日が続いています。羊蹄山、といえば子供の頃に父親と一緒に登頂し、霧で何も見えなかった山頂付近が山小屋で休憩したあとはとても綺麗な景色が広がっていた、という記憶がうっすらとあります。

さて、2025年9月4日から5日にかけて、オランダ・アムステルダムの Beurs van Berlage という歴史あるホールで開催されたRails World 2025に参加しました。

会場風景

本カンファレンスは、Rails の次期バージョンに含まれる最新機能やベストプラクティスに焦点を当てた技術的なトーク、デモ、キーノートが行われるコミュニティイベントです。RubyKaigi が Ruby "を" 開発している Rubyist の発表の場なら、Rails World は Rails "を" 開発している Rubyist の発表の場と言えるでしょう。

どこからきたかをピンする地球儀だけど日本の形がおかしい

会場風景も含めてイベントの設計なども面白いものが多いのですが、解説を始めるといくらでも書けてしまうので、その内容は Kaigi on Rails 2025 タイムテーブル解説会 - connpass に参加した人だけの特典ということにして、キーノートとパネルディスカッションに限ってご紹介します。なお、Rails World のセッションは YouTube で公開されているので NotebookLM などを使うと効果的に内容を把握できると思います。

基調講演

DHH: Omachy による究極の開発環境セットアップ

初日のオープニングキーノートでDHHこと David Heinemeier Hansson は、開発者が自身の開発ワークフローを完全に所有することの重要性を、衝撃的なライブデモを通じて示しました。

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37signalsでは、新しい開発者のセットアップを15分以内に行う「ブートストラップ・バジェット」を設けています。この目標を達成するために開発されたのが、LinuxベースのカスタムOS「omarchy(オマーチー)」です。私は最初、オマーキー...? と読んでいたのですが、omakase arch(linux) ということでオマーチーだそうです。DHHは、「新しいマシンのセットアップに時間をかけるべきではない」という思想に基づき、ステージ上で新品の Framework のデスクトップに omarchy をインストールするデモを披露しました。

omarchy インストール

驚くべきことに、OSのインストールは目標の5分を切る4分44秒で完了。omarchy には、Git、テキストエディタ、Docker、データベースなど、Rails開発に必要なすべてがプリインストールされています。DHHはそのままrails newコマンドを実行し、最新版の安定バージョンである Ruby 3.4.5 を使いながら、インストール開始からわずか6分半で"Hello World"アプリケーションをブラウザに表示させることに成功しました。

Rails開発における究極の生産性と「E2E Freedom」という、開発者が使う環境を End-to-End で自由なハードウェアと自由なソフトウェアを使うという思想を実現し、「Ruby on Railsを開発する最良の方法」となることを目指している、とのことでした。

Rails 8.1 に搭載予定の新機能についても紹介され、中でも nokogiri のメンテナでもある flavorjones こと Mike Dalessio が 37signals で開発をしている activerecord-tenanted がこういうの toB ソフトで絶対いるよねえ、という内容でキーノート直後のセッションもはしごして聞いていました。

github.com

なお、現在はまだ sqlite3 のみが完全なサポート対象で、その他のデータベースライブラリは対応中とのことでした。MySQL や PostgreSQL などを production で使っている企業の方は今の時期から開発に参戦すると良いかもしれません。

Aaron Patterson: Rubyのパフォーマンス改善と Rails

2日目のキーノートでは、ShopifyのRuby and Rails Infrastructureチームに所属する tenderlove こと Aaron Patterson でした。彼の講演は、主にRubyのパフォーマンス向上と、Ruby 3.5で導入される主要な機能に焦点を当てた技術的な内容でした。

ダジャレ

話の最初の5分はいつも通りのダジャレコーナーで「今日は日本語のレッスンです。Please wait a litle はちょっとオマーチーください」と始まり、会場にいた日本語をわかる人5-6人だけが大爆笑して、他の人は全員ポカーン、という内容だったのが一番面白かったです。

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tenderlove の発表では、レイテンシを増加させることなく、マルチコアマシンの並列処理能力を最大限に引き出すことです。この課題に対して彼のチームでは、RactorZJITという二つのアプローチで取り組んでいます。

  • Ractor: Ruby Actorsを基にした並列処理モデルで、各Ractorが独立したGVLを持つことで真のCPU並列性を実現します。フィボナッチ数列の計算デモでは、スレッドやファイバーが2秒かかる処理を、Ractorは480ミリ秒で完了させるという驚異的な結果を示しました。Ruby 3.5ではAPIの安定化と速度向上が図られ、CPU負荷の高い純粋なRubyコード(JSONパースなど)をRactorでラップするだけで、GVLを意識せずに並列化できると強調されました。

  • ZJIT: YJITの知見を活かした次世代のメソッドベースJITコンパイラで、Ruby 3.5に搭載予定です。Rails開発者がJITフレンドリーなコードを書くためのヒントとして、コールサイトを単一の型に限定するモノモーフィゼーション(Monomorphization)のエピソードを推奨しました。

最後に、Ruby 3.5ではオブジェクトのアロケーション速度がRuby 3.4比で70%も向上しているため、全開発者に対してアップグレードを強く推奨して締めくくりました。この発表は2日目、つまり最後の発表ということもあって、Rails World の他のセッションではあまりないような RubyKaigi でよく見るやつだ!とちょっと面白かったです。YJIT だと何が難しくて、そのために ZJIT を開発している、というような話が勉強になりました。

パネルディスカッション

私が参加したパネルディスカッションは2日目の朝イチセッションで行われました。このパネルではRubyとRailsのエコシステムを支える主要な開発者として、私(hsbt)、tenderlove、そして byroot の3名が登壇し、主に私は以下の点について議論しました。

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  • Rubyのリリースプロセス改善: GitHub Actionsの活用により、リリース作業を自動化し、期間を大幅に短縮したこと。
  • ツールのメンテナンス哲学: 日常的に使うツールを自ら改善し、その成果を共有することが安定につながるということ。
  • セキュリティの重要性: OSSプロジェクトにおいて、信頼を失うことが最も大きな損失であるため、セキュリティを最優先に考えていること。
  • Windowsサポートの重要性: Ruby/Railsのユーザーベースを拡大するためには、Windowsネイティブな開発体験の提供が不可欠であること。
  • Rubyのエコシステムへの貢献: Windowsメンテナが少ない現状は、貢献したい人にとって「ブルーオーシャン」であること。

やたらと Windows を掘り下げていましたが、会場で Windows を仕事または production で使ってる人〜?と聞いてみたら手を挙げたのは2名だけでした。Windows で Rails、これは伸び代しかない!

最後に全員で記念撮影

なお、パネルディスカッションのあとに手を挙げた2人とも声をかけてくれて、デプロイ先が Windows ! とか TortoiseGit が好きだから!など、自分もニコニコしてしまうような内容のおしゃべりができてよかったです。

まとめ

Rails World 2025は、Railsが進化し続けていることを再確認できる、というのもですが RubyKaigi が Ruby を開発している Rubyist にあって Thank you をいう場なら Rails World は Rails やよく使う gem を開発している Rubyist に Thank you をいう場であったと思います。

I got a lot of #rubyfriends photos at Rails World 2025. I always happy to say “Thank you for supporting Ruby!” to them. That’s the most important value of OSS for me.

hsbt (@hsbt.org) 2025-09-10T01:51:52.765Z
bsky.app

Rails World は毎年発売15分程度で売り切れてしまう、という大人気カンファレンスなので、今回はパネラーとして参加できたのは幸運でした。ここしばらくカンファレンスには登壇せずに引きこもっていたのですが久しぶりにモチベーションが回復したので、これを今後のRubyとRailsの発展に活かしていきたいと思います。