こんにちは、hsbt です。昨年末に宣言していた通りゼンレスゾーンゼロと鳴潮をプレイしながら年末年始を過ごして、今度は原神のアップデートを待ちながら暮らしています。
さて、2025年12月21日、Rubyはリリース30周年という大きな節目を迎えました。この記念すべき日に合わせて、Ruby公式サイトを全面リニューアルしました。
2006年の Radiant CMS採用、2013年に Ruby 誕生 20周年のデザインリニューアルと Jekyll による静的サイト化を経て、約12年ぶりとなった今回の刷新。プロジェクトが完遂した今、私とデザイナーであるtaeaさんがどのような議論を経て新しい「Rubyの公式サイト」を構築したのか、そのディレクションの裏側をご紹介します。
10年ぶりのアップデートが求められた理由
リニューアル前の公式サイトは長年愛されてきましたが、現代のWeb体験と比較するといくつかの課題を抱えていました。リニューアルを考える発端となった GitHubのIssue(#3227)でも指摘されていたのが、他の言語のサイトとの比較です。

私も改めて他の言語の公式サイトを眺めてみるとルックアンドフィールの古さは確かに感じました。特に、PC環境で見ると左右に大きな余白があり、10年以上前の標準に基づいたレイアウトが「古い印象」を与えているのは事実でした。
他にも課題と感じたのが情報の導線設計です。「Ruby をインストールするほどではないが、魅力を知りたい」という層がトップページを見た時に、ダウンロード、ニュース以外に目が行きにくいレイアウトでした。そのようなユーザーが、Ruby の楽しさを知る前に離脱してしまうのを防ぎ、魅力が直感的に伝わる場所へと再構築することが今回のゴールと位置付けました。
やらないことを決める
プロジェクトを推進する際に重要なことはゴールを決めると共に、やらないことを決めることです。今回のリニューアルにあたって、「既存ドキュメント」の修正、内容の更新は行わないことを決めました。
www.ruby-lang.org は多言語サイトであり、英語、日本語、スペイン語、フランス語など、多くのボランティアによるMarkdownドキュメントが存在します。トップページをモダンなデザインに刷新しても、下層のドキュメントページが完全に別物に見えてしまってはユーザー体験を損ないます。そこで私たちは、各言語ディレクトリ配下のファイルには極力手を加えず、共通のCSS(Sass)とレイアウトテンプレートを改善することで、サイト全体のトーン&マナーを統一する手法をとりました。
また、世界各国語で展開されている膨大な「既存コンテンツ」を統一したり、古い内容を刷新することもやめました。各言語間で内容に不一致が存在することの良い悪いとは別として、10-20年にわたるコミュニティからのコントリビュートによる蓄積についての調整に労力を使うのではなく、デザインのリニューアルのみにフォーカスすることにしました。こうした「運用を壊さず、多言語のコントリビューターを尊重する」設計思想は、オープンソースプロジェクトのサイト改修において最も重要な視点と考えています。
ヒーローイメージのデザインコンセプトの変遷
リニューアルにあたり、taeaさんは「Rubyらしさ(親しみ・実用性・文化性)」を軸に据えたデザインを当初提案してくれました。

最初のヒーローイメージに採用したキービジュアルは半透明のキューブが積み重なり、ランダムな立体を形作るこのデザインは、Rubyの根本である「オブジェクト」の連なりを表現しています。日本発の言語としてのアイデンティティを大切にするため、和の色彩(ルビーの赤だけでなく、伝統色を意識した色使い)をモチーフにしながらも、透明感のあるシャープな質感でグローバルなモダンさを両立させた、とのことでした。
現代のRubyの特長である「生産性・エコシステム・コミュニティ」を表現するため、赤い半透明の立方体の連続を幾何学的に整理し、宝石の「種結晶」の生成・増殖・成長になぞらえてみました。
このイメージを受けての私のフィードバックは以下の通りです。
上のナビゲーションに被さる箇所は調整されますよね?というのが質問と、四角い立方体が Ruby, Gem, Rubyist, Community と連想されるか、が残った不安でした。これを Ruby のロゴにしてしまうとややノイズだし、何かいい案があればなあというところです。
Ruby のモチーフはおおよそラウンドブリリアントカットの形状が一般的で、四角い立方体だけだと色は Ruby の色だけど、これらは具体的になんなのか、をトップページを見た人の多くが連想できるかが確信が持てないイメージだったため、再検討をお願いしました。その後、taeaさんより、以下のような案を提案してもらいました。

💭 まだ全然超雑なラフなんですが、昨日コーディング中に全く別の方向性の案を思いつきました…… こういう路線の方がRubyの楽しさや手触りの良さが、身近さがうまく表現できていいかもしれません
突然上記のようなデザインを提案してもらえたことに本当に驚いてしまいましたが、このイメージを見た時に自分が感じている「Ruby の楽しさ」そのものだったため、今回のリニューアルは成功するだろうというイメージが具体的になったと記憶しています。
「知る・試す・参加する」を加速させる情報設計
リニューアルの核心となるトップページの情報構成については、従来のサイドバー形式を廃止し、RustやGo、TypeScriptといったモダンな言語サイトに倣ったシングルカラムのフルワイド構成へとシフトしました。ユーザーが縦にスクロールしながら、Rubyの哲学、特徴、コミュニティの熱量をストーリーとして順番に受け取れる体験を目指しています。この「ストーリーテリング」の導入は、技術的なスペック以上に「なぜRubyなのか」という情緒的な価値を伝えるために不可欠な選択でした。

新しいトップページでは、ユーザーの学習フェーズに合わせたストーリーラインを構築しています。ヒーローイメージで Ruby の印象を与えた後に続く「Try Ruby」セクションでは、「最も美しく、特徴的なコード例」として従来より保存されているコード例を3つ提示し、そこからシームレスに Playground へ誘導する形に最適化しました。とはいえ、リリースされてすぐに、「こんなコード書けるんだ...」という反応があり例としては適切ではないと、すぐに修正を行いました。
このコード例は当初 ruby.wasm を活用したインライン実行環境の完全埋め込みも検討されました。しかし、私の作業にさく時間が足りず(Ruby と RubyGems のリリースも同時にやってました)、既存の Playground(try.ruby-lang.org)との役割分担を考え、最終的にはリンクとして誘導するのみにとどまりました。
続いて議論したのは、情報の優先順位です。当初はコードの魅力を伝えるセクションの後にすぐに詳細なニュースを並べる案もありましたが、「Rubyの世界への入り口」としての機能を強化する方向へ舵を切りました。
まず、Rubyの楽しさを凝縮した「Why Ruby?」セクションでは、単なる機能説明ではなく、第一線で活躍するエンジニアからの「推しコメント」を掲載しました。「人間が作る、人間のためのRuby」という言葉通り、コードの向こう側に人がいることを感じさせる演出を重視しています。

そして、Ruby最大の資産であるコミュニティ(Join the Community)を視覚的に訴求しました。世界中のカンファレンスでの熱気あふれるイベント写真をカルーセルで大胆に配置し、単なる道具としての言語を超えた「文化」への参加を促しています。
運用の継続性と技術的な決断
公式サイトは世界中のボランティアによって支えられています。そのため、見た目は新しくしても「運用を壊さない」ことが絶対条件でした。
運用基盤であるJekyllやGitHub Pagesの仕組みは維持し、既存のデプロイフローを尊重した設計にしています。ReactやVueなどのフレームワークは採用せず、ピュアな HTML や CSS 、JavaScript で構成することで、将来にわたって誰もがメンテナンスしやすい状態を保ちました。リニューアル作業の途中段階でも、オリジナルのリポジトリと同じように Cloudflareのプレビュー機能を活用し、デザインの変更が実際のMarkdownドキュメントにどう反映されるかをリアルタイムで確認しながら進めました。
作業の進捗は全てを GitHub の Issue で行い、taeaさんがその都度質問や作業進捗を書いたところに、私の判断が必要な箇所だけラベルをつけてもらい、毎週か隔週の頻度で全部判断して回答をするという方式で進めました。
このようなリニューアル作業を行う際に、既存のサイトの更新内容を追従することも課題の一つとして存在します。今回は、公開1ヶ月前くらいから、数回に分けてリニューアルプロジェクトのリポジトリに対して、オリジナルのリポジトリの差分を取り込むという作業を私が行い、リニューアル当日にはリニューアルリポジトリの変更差分をオリジナルにマージして push するだけ、という状態を確保しました。私はRuby 本体でも各種ライブラリの変更差分を見ながら、それぞれのバージョン間の整合性を確保するという作業を長年にわたってやっているので、このような作業のコツはだいたい知っているというのが功を奏しました。
おわりに:次の30年に向けて
2025年12月21日、新しくなった公式サイトは無事に公開されました。ちょうど 2025年12月25日に Ruby 4.0 もリリースされ、それに合わせて各種メディアがリニューアル後のヒーローイメージを OGP として採用しているのを見て、当初は延期も考えたリリースを 12/21 に実行してよかったと感じています。
今回のリニューアルの公開後、世界中のRubyistから自分のことのようにポジティブな反応が得られたことから、最初に決めたゴールの半分は達成できました。残りの半分はこれから Ruby を触る人たちにとって、良いページであることかどうかですが、リニューアルの完了に満足せずにフィードバックを積極的に取捨選択していこうと思います。
次の30年に向けて新しくなった公式サイトが、世界中のエンジニアにとってRubyの楽しさを再発見する場所になり、一人でも多くの新しいRubyistが誕生するきっかけになれば幸いです。